森内昌子, 森内浩幸

ヒトの平均寿命が50 歳を過ぎたのは先進工業国においてすら、つい一世紀前のことである。長い進化の歴史の中では、50 歳を越す例外的に長命の人のさらに20人に一人がかかる病気である。病原性は限りなくゼロに近かった。長寿の今だからこそ、無視できない意味合いを持つのである。現代医学を以てしても非常に予後不良の疾患の発症を予防するために最も効果的な方法は、キャリア母体からの母乳哺育を止め、児のキャリア化を防ぐことである。 ところで、両者の関係はウイルス側からみても悪い方向に行っている。実はこのウイルスは自然減の途上にあるみたいなのだ。元々ヒトは 2 歳くらいまでは完全母乳哺育を行い、4 ∼ 5 歳くらいまでは母乳を飲んでいた。・・・今では5ヵ月頃から離乳食を開始し、平均 10 カ月頃までには卒乳するので、ウイルスにとって伝播のチャンスが少なくなってしまった。長崎県のデータは授乳期間の長さが母子感染率に大きくかかわることを示した(感染率は長期母乳>短期母乳>完全人工栄養の順)が、実はこのウイルスは私たちの生活の変化に伴う自然発生的な「短期母乳」効果で、キャリア率は年々減ってきているのだ。 ・・・生物学的な進化の歩みに比べて、私たち社会の変化は著しく、共進化してきたはずの微生物との間にすれ違いや軋みが生じている現状は、今後どのように展開していくのだろうか?次の世代に思いを馳せると嘆息が絶えない。 母子感染するウイルス:共生か矯正か(PDF ファイル)